MC用RIAAイコライザアンプ
次はSATRI回路の特長を最大限に生かしたアプリケーションです。
SATRI回路は入力インピーダンスが低く電流入力ですから、この条件に合う信号源と組み合わせると最大限の能力を発揮します。
ここではMCカートリッジ専用のRIAAイコライザアンプを考えてみます。
MCカートリッジはコイルが磁界中で動いて発電します。その動きがフレミングの法則によって電流になるのです。
カートリッジの針、またはカンチレバーにコイルは取り付けてありますから、コイルの重量を軽くするためにコイルのインピーダンスは小さく設定してあります。
MMカートリッジでは逆にマグネットが動きますから感度を上げるためにコイルは多く巻いてありますので、インピーダンスは高くなっています。MCカートリッジの出力電圧は小さいのですが、電流はMMカートリッジより大きいのです。
ですから、SATRI回路と直結することで大きな感度を得ること ができます。
図16に回路を示します。
この回路ではMCカートリッジの出力をコンデンサを介してSATRI ICと接続します。
これは入力側で発生するオフセット電流で、DCRが入力インピーダンスより低いカートリッジを接続すると出力が飽和することがあるからです。コンデンサには必ずOS-CONを使います。
この方式ではコンデンサでDCオフセット電流を流れないようにしますので、一番簡単な方式ですが、他の方式にはないメリットがあります。
それは、周波数が低くなるほど入力インピーダンスが高くなりますので、MCカートリッジの制動がかからなくなります。
従って、振幅の大きい低い周波数では カートリッジの針が動きやすくなり、トレーシング能力が向上します。
ですから、音質的にはのびのびした音になります。また、オフセット電流打ち消し回路を 入れることもできます。
それを図17に示します。
入力側に1Ωの抵抗を入れ、入力にVR1とR11で構成される打ち消し回路からオフセットを打ち消す電流を流し込みます。
この回路の欠点としては、電源に電池などを使用した場合、電圧が変わってくると打ち消し電流も変化してくることです。
またDCサーボで打ち消すこともできます。図18に示します。
DCサーボをかけると、入力側のオフセットと同時に出力側のオフセットも打ち消しますので一石二鳥です。
これらの回路の電源は電池が適当だと思います。単3電池を8本ずつ、16本使い±12V電源にします。
電源のパスコンは必ずOS-CONを使い、電源のノイズをできる限り少なくすると同時に、電源インピーダンスを徹底的に低くします。
MMカートリッジを使うときは、上記のRIAA回路にFETを使ったバッファを入力側に設けます。
バッファとSATRI ICの間にRを挿入し、ゲインを調整します。
MMカートリッジは出力電圧が大きいものや小さいものなど多くの種類がありますので、Rを可変にすることで最適な増幅度を選ぶことができます。
次に実際にMCカートリッジを接続した状態で、出力電圧を見てみます。
テストレコードがないので、音楽のレコードの出力電圧をストレージオシロスコープで見てみました。
平均電圧は特定しにくいので、最大出力電圧を測定しました。
これを見ると、出力電圧の小さいオルトフォンのSPUの出力が最も大きくなっています。
これは出力電圧が低い分カートリッジのインピーダンスが低いので出力電流が最も大きいからです。
このRIAAイコライザでは、カートリッジの出力が10μAの出力があれば、1KHzの出力は0.147Vになります。SATRI回路の出力に はCRのRIAAのネットワークがつきますが、これがRLとなりSATRI回路の増幅度はRIAAカーブのとおりの周波数特性を示します。ですから、今ま でのNF型イコライザの欠点であった、アンプ内部でのクリップ現象は起こりません。
また、高域のノイズはRIAAカーブのとおりに減衰します。
実測ではこのイコライザのノイズはAカーブを使ったとき30μVで1Vに対して-90dBです。
普通の電圧増幅では増幅度を足した値が入力換算 のS/N比になります。MCカートリッジの出力電圧が0.1mVとすると、電圧換算でS/N比は-150dB〜-160dBとなります。
このように今まで の常識を超えた特性がSATRI回路では簡単に実現することができます。
SATRI ICによる演算回路
SATRI回路は基本的に電流入力、電流出力の回路です。これを応用すると、SATRI回路自体を自由に接続することができます。
SATRI回路の出力はSATRI回路の入力に接続できます。最終的にRLで電圧に変換しない限り、信号はすべて電流ですから、クリップの心配はありません。
SATRI回路の出力はSATRI回路の入力に接続することができますから、複数のSATRI回路の出力を並列に一つのSATRI回路の入力に接続すると加算回路が形成されますので、ミキシングアンプなどに応用できます。
SATRI回路の非反転回路と反転回路を一つのSATRI回路の入力に接続すれば、バランス入力回路、共通の入力から非反転、反転のSATRI回路出力を使用すればバランス出力回路、BTL回路が構成できます。
SATRI回路による伝送路
SATRI回路を使ったマイクなどの出力にRLをつけないで、電流で信号を送り出すとケーブル長が長い場合でもリアクタンス分を補正しますので、高域の減衰が電圧電送よりも大変少なくなります。
アンプ同士の接続もこれを応用すれば、パワーアンプはスピーカーの側において、コントロールアンプは手元に置くような場合でも音質の劣化がない接続が可能です。
D/Aコンバータ
一般のD/Aコンバータチップは電流出力ですので、SATRIICの入力にそのまま接続し、必要とする出力電圧になるRLを接続することで高精度の電圧変換が実現できます。
オーディオ以外の応用回路
SATRIICはオーディオ以外のアプリケーションにも応用できます。
SATRI回路では周波数特性はRLに依存しますの で、RLをビデオや高周波で使う50Ωや75Ωにすると帯域は数10MHzに伸ばすことができます。
また、入力を電流検出コイルや、光半導体などの電流出力素子もSATRI回路によって高いS/N比で増幅することができますので、計測などの分野にも応用できます。
SATRI回路とOS-CON
SATRI回路には必ずといっていいほどOS-CONが使われています。
OS-CONは佐賀三洋工業株式会社が開発したコンデンサで、有機半導体コンデンサといいます。
電解質に液体ではなく有機半導体という固体の電解質を使っています。
このコンデンサの特徴は、広帯域の周波数帯で、超低インピーダンスを実現し ていることです。
この値はオーディオ用の超低インピーダンス品の1/30以下です。
また、音質的には全くといっていいほどの色付けがありません。
このコンデンサのおかげでSATRI回路は実現したといても過言ではありません。
SATRI回路はRとRLの比で増幅しますので、その音質は蒸留水のようだとか、澄み切った空気のようだなどの評価を得てきました。増幅には抵抗だけしか関与しませんから、色付けが少ないことは予想できます。
しかし、使用するコンデンサの音色は異常に再現してしまいます。
SATRI回路にはOS-CONを全面的に使用した場合においてのみ、その特徴を発揮します。従って、SATRI回路のアプリケーションではSATRI回路の周りは必ずOS-CONの使用が必要です。
OS-CONは現在35V耐圧のものがありますが、容量が限られていますので、一般には25V耐圧までと考えてください。
使用に際しては連続使 用は耐圧の80%となっていますので、必ず守ってください。
特に、RLをボリュームで可変にするとき、絞った状態では帯域は数10MHzに及びますので、 帯域の広いOS-CONの使用が必要です。
このようにSATRIICは今までの発想を変えることにより、さまざまな分野の新しいアプリケーションを開発することができます。
増幅度が2本の抵抗の比で設定できるSATRI回路は増幅の理想に大きく近づいた回路といえるでしょう。
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